媒体の責任
広告の責任は、基本的に広告主にあります。
不当な不動産広告を掲載した新聞社に損害賠償を求めた最高裁判例(日本コーポ事件)で、「広告の責任は広告主にある」という解釈がとられました。
広告媒体者の損害賠償責任の法的根拠は、民法上の不法行為責任です。
ポイントとなるのは、広告媒体者の「広告内容の真実性についての調査確認義務」の存否です。
この問題について重要な判決が、最高裁平成元年9月19日第三小法廷判決(日本コーポ事件)です。マンション未着工のまま業者が破産した事件で、新聞広告を見てマンション購入契約をし、内金を支払った顧客が新聞社や広告会社を訴えました。
最高裁は、結局新聞社の責任を認めませんでしたが、調査確認義務について、以下のように述べています。
「・・広告掲載に当たり広告内容の真実性を予め充分に調査確認した上でなければ新聞紙上にその掲載をしてはならないとする一般的な法的義務が新聞社等にあるということはできないが、他方、新聞広告は、新聞紙上への掲載行為によってはじめて表現されるものであり、右広告に対する読者らの信頼は、高い情報収集能力を有する当該新聞社の報道記事に対する信頼と全く無関係に存在するものではなく、広告媒体業務にも携わる新聞社並びに同社に広告の仲介・取次をする広告社としては、新聞広告のもつ影響力の大きさに照らし、広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し、又は予見しえた場合には、真実性の調査確認をして虚偽広告を読者らに提供してはならない義務があり・・」
本件は,新聞(全国紙:日本経済新聞,朝日新聞)に掲載された広告(分譲マンション)に関して新聞社等の責任が問われた事件でした。
この判決の後、同じ判断枠組みが使われた裁判例として、大和都市管財抵当証券商法に関する新聞広告、ジー・オー・グループの詐欺商法のテレビCM、エンジェルファンド投資詐欺事件の雑誌広告、平成電電の出資者募集の新聞広告に関する事件などがありますが、全て広告媒体者の責任が否定されていました。
その他、広告媒体の責任が問われた事件としては、下記があります。
- 新聞(地方紙:大阪スポーツ)に掲載された広告(サラ金)の広告に関して新聞社の不法行為責任が否定された事件(大阪地判平9・11・27判時1654号67頁)
- 共済組合関係の記事を掲載する月刊誌(ニュー共済ファミリー)に掲載された分譲地の広告が悪用されて金員が詐取された場合について月刊誌の発行者の不法行為責任が肯定された事件(東京地判昭60・6・27判時1199号94頁)
- タウン情報誌(関西版・ピア)に掲載された広告の誤りから第三者に損害が生じた場合について出版社の不法行為責任が肯定された事件(大阪高判平6・9・30判時1516号87頁)
- スポンサー(投資ジャーナルグループ)提供のテレビ番組(テレビ神奈川)内の広告が悪用されて視聴者が詐欺に遭った場合についてテレビ局の不法行為責任が否定された事件(東京地判平元・12・25判タ731号208頁)
<参考文献>
【コラム1】消費者に対する広告媒体者の責任
健康増進法の規制と媒体の責任
健康の保持増進の効果等が必ずしも実証されていないにもかか わらず、当該効果等を期待させるような健康増進法上の虚偽誇大表示や景品表⽰法上の優良誤認表⽰(「虚偽誇大表示等」という。)に該当する宣伝等は、禁止対象です。
健康増進法第31条第1項は、景品表示法とは異なり、「何
人も」虚偽誇大表示をしてはならないと定めています。
何人も、食品として販売に供する物に関して広告その他の表示をするときは、健康の保持増進の効果その他内閣府令で定める事項(次条第三項において「健康保持増進効果等」という。)について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない。
「健康食品に関する 景品表示法及び健康増進法上の 留意事項について」(消費者庁)11ページは以下のとおり述べています。
虚偽誇大表示を禁止している健康増進法第31条第1項は、景品表示法とは異なり、「何
人も」虚偽誇大表示をしてはならないと定めている。そのため、「食品として販売に供する物
に関して広告その他の表示をする者」であれば規制の対象となり、食品の製造業者、販売
業者等に何ら限定されるものではない。したがって、例えば、新聞社、雑誌社、放送事業者、
インターネット媒体社等の広告媒体事業者のみならず、これら広告媒体事業者に対して広
告の仲介・取次ぎをする広告代理店、サービスプロバイダー(以下、これらを総称して「広
告媒体事業者等」という。)も同項の規制の対象となり得る。
もっとも、虚偽誇大表示について第一義的に規制の対象となるのは健康食品の製造業
者、販売業者であるから、直ちに、広告媒体事業者等に対して健康増進法に基づく措置をと
ることはない。しかしながら、当該表示の内容が虚偽誇大なものであることを予見し、又は
容易に予見し得た場合等特別な事情がある場合には、健康増進法に基づく措置をとること
がある。したがって、例えば、「本商品を摂取するだけで、医者に行かなくともガンが治
る!」、「本商品を摂取するだけで、運動や食事制限をすることなく劇的に痩せる!」など、表
示内容から明らかに虚偽誇大なものであると疑うべき特段の事情がある場合には、表示内
容の決定に関与した広告媒体事業者等に対しても健康増進法に基づく措置をとることが
ある。
健康や栄養に関する表示の制度について(消費者庁)
なお、消費者庁では、平成28 年1 月から3 月までの期間、インターネットにおけ る健康食品等の虚偽・誇大表示の監視を実施しました。この結果、142 事業者 による162 商品の表示について、健康増進法第31 条第1項の規定に違反する おそれのある文言等があったことから、これらの事業者に対し、表示の改善を 要請するとともに、ショッピングモール運営事業者へも表示の適正化について 協力を要請しました。
ライオン事件
特定保健用食品(トクホ)に対する健康増進法の初適用を受け"ライオン・ショック"が広がりました。第一に、国が許可したトクホの広告が初めて健増法の勧告(行政指導)対象になりました。
第二に、これまで実績のなかった健増法が初めて適用されました。
2003年の健康増進法改正で「誇大表示の禁止」が規定されて以降、「勧告」は適用されてこなかったのです。「勧告」は"行政指導"である点で景品表示法の「措置命令(行政処分)」と異なるものです。勧告に従わない場合、「命令(同)」に移行するというワンステップ置いた運用です。ただ、"社名公表"を伴う点で社会的な影響は大きいです。
この事件は、事業者だけでなく、媒体社にも大きな動揺が広がりました。表示を行った販売者や製造者を対象にする景品表示法と異なり、健増法には、広告の「内容責任」だけでなく「媒体責任」を問う"何人規制"があるためです。
"ライオン・ショック" 初勧告の衝撃① 新聞15紙が広告掲載
"ライオン・ショック" 初勧告の衝撃② 新聞に広がる動揺
"ライオン・ショック" 初勧告の衝撃③ 6団体が反対表明
"ライオン・ショック" 初勧告の衝撃④ なぜ「勧告」は使われたのか
"ライオン・ショック" 初勧告の衝撃⑤ 相談わずか10件
"ライオン・ショック" 初勧告の衝撃⑥ 事業への影響は?
広告ネットワーク提供者の責任
ヤフー社のガイドラインは以下のとおり述べています。
「3. 掲載の可否判断と広告の責任について
当社は、この基準に基づいて個別に掲載の可否を判断していますが、当社の判断は広告に関する広告主の責任を軽減するものではありません。広告掲載を申し込む際には、広告に関する責任は広告主自身が負うことを承諾したものとします。また、掲載の可否を判断した理由について回答することはできません。」